もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

マニアな一席「抜群なキャラと演技の師匠たち」3選

芸人の方々は時々映画やドラマでも見かけるけど、
落語家さんてあんまり記憶にない。
「この人きっと落語家さんだなあ」という雰囲気の、いかにも三枚目役割り当てられましたって人はちょくちょく見ることもあるけど。

 

きっと、今までの映画史上でいっぱい出演されているのだろうけど、こっちが知らないだけで。
まず、落語家さんたちはテレビなんかで頻繁に見ない。
興味がない限り、よっぽど有名な方々でないと顔も知らないという人がほとんど。

 

でも総合的に、落語家さんを含め芸人さんたちって演技がうまい。
個性的な存在であるはずなのに、それがキャラの表面に出てこないのがスゴイ。

 

なんで急にそんなこと思いついたのかというと、数十年ぶりに「帝都物語」を読んで、映画も見たから。それがはじまり。

 

帝都物語

 

 

尊敬すべき実相寺監督による、CGの向こうを張る特撮技術のすご技と、明治の風俗の絶妙なおしゃれさで大好きな邦画。

 

安倍晴明や魔術ブームのはしりといわれるこの物語は、魅力的なキャラが目白押しで、
またその配役がいちいちハマっているのに感心する。

 

なんといっても「カトウ」が断トツだけど、一流の役者さんたちの顔ぶれとハマり具合に嬉しくなる。

 

 

そのなかで、風水師「黒田茂丸」を演じられたのが桂文枝師匠。当時の桂三枝さん。
帝都を風水的に研究し、二宮金次郎の像を背負って夜な夜なコツコツと帝都を風水の面から救おうとする人物。
ひょうひょうとした言動ながら、恵子たちを助ける役目の重要なキャら。

 

架空の人物とは思えないくらい帝都物語という長いストーリーを通して重きをおく人物で、変な表現だけど妙に濃くなくサラサラとした雰囲気の人。

 

濃厚なインパクトの熱血実在歴史人物たちの中で、違う空気をまとった重要人物黒田茂丸。濃厚なインパクトの役者さんたちの中で、違う空気をまとった落語家さんの文枝師匠。
あの設定とあの演技だからこそ、自分の中ではバッチリハマった。

 

帝都物語を再読しても、頭の中の映像に浮かぶ黒田茂丸は若き日の文枝師匠。

 

学校の怪談4(※ちょっとネタばれ気味)

 

これまで学校がメインで、どちらかというとファンタジー的要素も大きかったシリーズの中で、こちらは学校がメイン舞台ではなく、ストーリーも怪談的要素の濃い作品。

 

夏休みに海辺の町を訪れた兄妹。
彼等はそこで大型台風に見舞われる。
「嵐になると、死んだ人が海から帰ってくる」という不気味な伝説どおり、1人1人子供たちが消えていく…。

 

主人公は兄妹のうちの妹「弥恵」で、この怪事件に関わっていく。
その弥恵ちゃんが港で出会った町の文房具屋さんが笑福亭松之助師匠。
明石家さんまさんの師匠です。

 

 

関西では子供のころからよくテレビで見ている馴染みの人でしたが、全国的には知らない人も多かったんではないかな。

 

この文房具屋のおじさんが非常に奇妙な人物で、ぶっきらぼうな言葉遣いで愛想がない。でも悪い人ではない。弥恵ちゃんに対して背中を向けているような態度なのに、心を閉ざしているわけではない。

 

幼い頃に津波に襲われた経験を持ち、友達たちの中で自分だけ助かったという辛い過去を持っている。
結果、彼は今回の事件に深く関わっていることを弥恵ちゃんが突き止めるのだが…。

 

「あ、松之助師匠や」と何気なくみていたのは最初のうちだけで、このおかしな人物にどんどん惹きこまれていく。怪しいのか、見方なのか、彼はいったい何者なのか。
つかみどころのないこの人物の言動が、彼の正体がわかった時に何となく理解できる。

以後ネタバレ気味です

 

松之助師匠はおじさんではなく、子供を演じていたことに気づく。
そして圧巻は、(話題にもなったと記憶しているが)
松之助師匠が消えていく場面。
消えていくというよりほどけていく場面。

 

まさに落語家さん本領発揮のワンシーン。
この映画の中で二番目に印象に残った。

 

なんで二番目なのかというと、
一番は目の当たりにする津波のシーン。
東日本大震災以後、これはちょっとなかなかタブーなのかと思う。

 

見上げる空に高くそびえる高波。
悲惨なシーンはなく、ただそれだけのカットだったにも関わらず、ものすごくインパクトが強くて怖かった。

 

理屈ではなく、こんな感じで覚える恐怖心が大切だったりするのではないかと。

 

ドグラマグラ

 

 

 

原作の夢野久作のこの小説。
「読むと頭がおかしくなる」と言われているというのをどこかで読んで、
「頭がおかしくなるのは嫌だ」と思って読まなかった作品。
冗談でななく、ほんとにそう思っていたのです。

 

で、大人というよりおばさんになってから映画を見た。
確かになんとも気持ちの悪い話で、楽しく明るい映画が好きな人には絶対おすすめしない類の映画。

 

主人公の一郎が目を覚ますと、そこは鉄格子がはまった窓のある部屋。
なぜここにいるのか、自分が誰なのかまったく覚えていない。

 

そこに入ってきた医者らしき男。
彼が言うには、一郎は恐ろしい事件に巻き込まれたショックで記憶を失ってしまったとのこと。


ある日かつて学生の患者が書いたというドグラマグラという推理小説を見つける。読んでいくうちに、一郎の頭の中でさまざまな幻想が交錯していく――。

 

医者らしき男が桂枝雀師匠。
亡くなられたが、独特な落語は今も人気。

 

 

子供の頃、テレビで見る枝雀師匠の落語が好きだった。
落語の内容はさっぱりわからないんだけど、ツルツル頭をくりくりなでながら、ふにゃふにゃとした柔らかい笑顔と独特なリアクションと口調は、見ているだけで子供の気を引くには十分だった。

 

この狂気の映画の中の、怪しげな人物と枝雀師匠のイメージのギャップはすごい。
なのに、こんなにもぴったりくる配役があるだろうかとすら感じてしまう。
この感覚は何だろう。

 

ドグラマグラの中の枝雀師匠は、落語という独特な世界をものすごく印象づけてくれる。
起こる出来事をそのまま現実の映像として見せてくれる映画と、
すべての映像が聞いているものの頭の中で作られる落語の違い。

 

現実と幻想、それが入り混じる狂気の空気感が、微妙にこの対比にぴったりなのだ。
明るいのか暗いのかわからない怪しい医者の言葉と高笑いは、空中に浮いている感じがして、座りが悪く気持ち悪い。

 

ミステリーとしても名があがるこの物語。頭はおかしくならないし、ちゃんと伏線回収もされる(?)けど、まあ気持ちのいいとはいえないこの映画、正直枝雀師匠じゃなかったら、見なかったです。
加えて、枝雀師匠だからこそ見てよかったです。

 

 

長くなってしまいましたが、落語と師匠たちの魅力を味わえる3本。
映画としても名作ぞろいです。
ありきたりな締めですが、師匠たちの落語、また聞きたくなります。