もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

主人公のまっすぐぶりが可愛い「自由研究には向かない殺人」

ミステリー小説も行きつくとこまでいった感じがする、もうどんな事件もネットが解決しそうだ、みたいなことを以前誰かと話したことがあるんだけど、まさにそれをイギリスの女子高生ピップがやってのけてしまった。


素人探偵が主役の時に、どうやって捜査に関わるかというのは1つのネックという気がする。
警察官に知り合いがいたり、事件に偶然巻き込まれたり、いろんな手段で警察からの情報を得る。

この小説の場合、ピップは事件の当事者でもなければ、警察に関わりもない。
なんせ、目的が“警察を動かす”というところにあるのだ。

しかも、事件は5年前。
ピップの住む町で、1人の女子高生が行方不明になるという事件が起きた。
彼女と付き合っていた男子高生が殺人の状況証拠を残したまま自殺を遂げる。

女子高生アンディの死体は見つからないまま、事件は解決していた。
当時12歳だったピップは、長く疑問を持ち続けていたこの事件を、高校生最後の自由研究という名目で、自ら調査を始める。

なぜなら、彼女は犯人とされたまま死んだシンの無実を信じ続けていたからだ。
かつて自分の心を救ってくれた、あの優しかった近所のお兄さんは絶対犯人ではない!

まずピップが勇気をふりしぼって訪ねたのが、殺人犯の家族としてほとんど村八状態だったシンの家。
当然起きるひと悶着の末、シンの弟ラディという相棒をゲットする。

ピップの調査方法は、当時の関係者のインタビュー。
インタビューのページは空白をいっぱい使っていてとても読みやすい。

そして、ネットに記録し整理されていくインタビューの内容と推理。
しかし、それを続けていくうちに、当時の警察が見逃していた小さなウソや噂話が次々に明るみに出てくる。Facebookの情報やさまざまなツール、警察では知り得ない友達や先輩など横のつながりを利用し、どんどん調べあげていくピップ。

この本を読む前は、正直あまり期待していなかっただけに、いい意味で期待を裏切られグイグイ引っ張り込まれた。
面白さは、内容だけでなくキャラクターの魅力。
解説でも書かれているように、ピップと家族の雰囲気がすごく良い。

ピップの日常生活の中の、学校での様子や友達との軽妙なやりとりはミステリーのオドロオドロさを感じさせない明るさに満ちていて、読んでいても楽しい。

 

 

犯人も最後までわからないし、ラストまで二転三転してかなり楽しませてくれる。
面白いのは、ある理由によりピップはパソコンを使えない状態に陥り危機を迎えてしまうのだが、それでもめげない!

ボード、書類、地図、ペンと糸という原始的捜査に立ち戻り、ほぼ意地と使命感で突っ走っていく。
そんなピップがめちゃくちゃかわいい。

解説のおっしゃるとおり、この物語は公平に見ることの大切さを教えてくれる。
なぜ、事件は間違った結末を迎えていたのか。
彼女が暴いていくのは、犯人だけでなく美少女の悲劇、人種の偏見という観念を作り上げてしまった町の人々のかたよった言動でもある。

被害者や犯人の人物そのものを、公平に見ることができなかったことの悲劇だ。

マルチメディアそのものが偏ったものではないか、という声も聞こえてきそうだが、だからこそ真実を自分で追及する術を与えてくれる。

警察しか知り得なかった、テレビでしか得られなかった情報は、まさに過去のミステリー小説の中にしか存在しなくなるかもしれない。

生まれながらにしてマルチメディアにどっぷりと浸かって生きていくこれからの若い方たちが、公平な目で真実を見ることができるピップのような人であることを、願ってやまない。