もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

籠城ミステリーがすごく斬新「黒牢城」

この小説の中で、討ち取った首を綺麗にしてあげるという女たちの役目が出てくるのだけど、ふと、谷崎潤一郎の「武州公秘話」を思い出した。

 

 

首に化粧をほどこすというのを初めて知ったのが、その小説でかなり衝撃を覚えた。話は黒牢城とはまったく違う、変態武将のグロテスクなお話なのだけど、谷崎潤一郎作品の中ではお気に入りの1つ。

 

黒牢城は、織田信長に反旗を翻した武将荒木村重が、その城に立てこもった間に起きた奇妙な事件をミステリーとして描いた作品で、ミステリーとして楽しむか、歴史小説として楽しむかは人によって違うだろうけど、自分としては歴史小説としての方が読み応えがあった。

 

村重のことを知って読むのと、知らずに読むのとでは印象が違ってくるのだろうけど、この作品の中に流れる暗闇の雰囲気がとても気に入った。

 

特に夜の場面が多いわけでもないし、闇がいっぱい出てくるわけでもないのに。
官兵衛が閉じ込められている土牢の描写のせいかもしれない。

 

想像の中の映像で、暗闇の中でうごめく官兵衛の姿や、闇の中にゆれる松明の灯や、真っ暗な芦原、足元にのびる道、夜の黒い背景の中で話す武士たちの姿などがとても鮮烈に浮かび上がる。

 

内容を覚えていないのにある場面だけが鮮明に頭に残っているという映画がよくあるが、なんかそんな感じ。武州公秘話も初めて読んだときそんな印象を受けた。あちらは暗闇ではなく、灰色のイメージ。モノクロの中に浮かび上がる強烈な赤や原色の映像を、自分の脳は勝手に作ってしまっている。

 

時代特有の現実感の無さのせいだろうけど、奇妙に美しい。

 

 

それにしても、こういう形の戦国ものは、戦のグロテスクさをいろんな意味で教えてもらえる。それはまさに現代においても同じで、残虐な目にあい首を切り落とされるのは、武器を持っている人間だけではない。

 

生きるも死ぬも殿の一存。
この村重の叛旗や、長島の一向一揆の描写も描かれていくが、ほんとおぞましい。
織田信長本人は、まったく小説の中に出てこないのに、その恐ろしさが伝わってくる。

 

何より、心に響くのは村重に言う黒田官兵衛の言葉。
「村重殿には、もう私しか話す相手がいないのではないですか」