ミステリー好きのための、新本格好きのための――という触れ込みで評価も高い。
これは面白そうだってことで読んでみた。
ミステリ好きの大富豪が建てた硝子の塔。
そこにさまざまな職業のクセの強いメンバーたちが呼び集められる。
まずは定番の設定が用意され、そしてお約束のように起こる連続殺人事件。
富豪が集めた数々のコレクションとミステリーの蘊蓄。
島田荘司の占星術殺人事件から、ドラマのシャーロックまで事件の合間合間で語られる蘊蓄はなかなか激しいが、特徴的なのはこの作品そのものが蘊蓄になっていること。
面白いのは、この塔で起こるストーリーを追っていくと、都度いろんな名作の名が浮かぶのだ。謎が解明されトリックが暴かれたときも同様に、かつての名トリックが浮かぶ。
なので、なんか思ったよりありきたりなトリックだなあと思うのだが、実はそのありきたり感がとても重要になってくる。練りに練られたストーリーの結末は、後半怒涛のように明かされていく。
密室、ダイイングメッセージ、倒叙など盛りだくさん。詰め込めるだけ詰め込んだという感じ。話じたいは荒唐無稽なんだけど、そこが良い。
絶対ありえんだろうという出来事なのに、理論的にしっかりありえる、このおもちゃ箱みたいな感じが、今まで読んできた新本格ミステリーの醍醐味の1つ。
硝子の塔である必要性はあるのか、と思って読んでいたがちゃんとトリックに必要だった。まるで、本格ミステリーが持つ、何かが1つズレればとたんに崩れてしまうロジックの危うさを象徴しているようだ。
ラストで主人公が見つけたものにより、硝子の塔が表現していたものの正体が暴かれるが、「なんと…」と呆れて感心して心の中で静かにほくそ笑みながら拍手。