もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

誰もが善人でもなく悪人でもない奇妙な事件「インサイド・マン」

立てこもった強盗と警察の心理戦が展開される映画は、どちら側にスターがいるかによって、展開や結末が違ってくる。

 

 

警察側にデンゼル・ワシントンがいる以上、結果的には警察側の勝利になるんだろうと思っていたが、犯人のクライブ・オーウェンがそうはさせるかと巧みな演出を見せてくれる。

 

見ている側がどっちの側にも立てない、とにかく展開が楽しい映画だ。加えて利口で小ずるそうなジュディ・フォスターの弁護士の登場によって、本当に悪いやつがあぶり出されていく仕組み。

 

この映画に単なるエンターテインメント炸裂感を感じないのは、正義に貫かれているキャラクターがいないからだろう。警察も弁護士も銀行側も誰もが硬い保身感をまとわせている。

 

ある意味正義を持っていたのは犯人なのか?ともとれるが、ちゃんと手に入れるべき報酬もあり、命をかけて正義感を貫くようなカッコよさも感じない。単にゲームとして楽しんでいるようにも見えて、いったいどういう人間なのかもわからない。

 

この犯人の意味不明度が、単調になりがちな映画を面白くさせている。どんなふうにこの状態を乗り切るつもりなのか、というところは次第に予想ができてくるが、果たしてそれがうまくいくのか乗り切れるのかというところに向かって目が離せなくなっていく。

 

現実の犯罪においても「普通の人でしたよ」という証言はしょっちゅう聞かれるが、この映画でも普通の人であることが、犯罪を成功させる要にもなっている。ある意味善人でもなく悪人でもない普通の人。

 

銀行強盗のストーリーと共に、ところどころで人質になった人たちの証言が挟まれるが、彼らもまた一癖ある部分を持っていて、誰もが決して善良な人間でないことを印象づけられる。

 

三人のベテラン俳優さんたちが、アクションサスペンスだけになりがちな内容を落ち着いたものにしているが、彼らもまた善人でなく、かといって悪人でもない。

 

巧妙に作られた内容に、ラストはニヤリとさせてくれる爽快感と共にため息も残る。
実際こんな事件が起こったら、普通の人である私たちはきっと拍手喝采してしまうかも。
いや、ネットでは普通の人たちの賛否両論でもりあがるだろうなあ、きっと。