もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

時代物に馴染みがなくてももお勧めできる時代ミステリー「木挽町のあだ討ち」

時代物に馴染めない人にも勧められる小説だなあという感じです。

 

 

ここんとこ「なんじゃこりゃ」という時代物に当たる回数が増えていたので、こんなにわかりやすく読みやすく、小気味よい時代物に出会うと嬉しくなる。

 

遊郭や芝居小屋などを舞台にした時代物やミステリーが好きなので、読んでいて楽しかった。

 

ある年の冬、江戸の芝居小屋の側で美しく壮絶なあだ討ちが行われた。父を殺した下男をみごと討ち取った若侍の菊之助

 

その派手なあだ討ちの一件は、菊之助が美青年であったことも相まって、民衆の注目や喝采を浴びた。

 

菊之助はあだ討ちを成し遂げ、国に帰って念願どおり父の跡を継ぐ。

 

その騒ぎの二年後、菊之助の縁者と名乗る若侍が芝居小屋を訪れる。彼は、芝居小屋にいる役者や裏方のさまざまな面々に、当時の菊之助やあだ討ちの様子を詳細に聞き出そうとする。

 

加えて、彼ら一人一人のこれまでの人生を知りたがり、その数奇な運命を語らせていく。

 

この小説は、各章がそれぞれの人物の一人称になっていて、聞き手である若侍といっしょに彼らの語りを聞く造りになっている。

 

先日書いたブログの「インシディアス 赤い扉」はホラーの形をとったドラマだと思ったのだが、「木挽町のあだ討ち」はミステリーをベースにしたドラマだ。

 

なので本格ミステリーな内容を望んでいる人には向かないと思う。読み進めていくうちにいろいろな面から見たあだ討ちの詳細も見えてくるし、なんとなく事件の輪郭も読めてくる。

 

けれどラストの章で明かされる細かい真実の描写は圧巻だ。映像化もできそうなほど鮮やかに浮かぶあだ討ちの場面はみごとだが、それを堪能するには、各章で語られている彼らの運命や人物を心に刻み込んでこそ得られるものなのだ。

 

遊郭や芝居小屋を舞台にすると、どちらかというと暗い雰囲気になりがちなのだが、彼らの人生のドラマは生きることの厳しさやそれを乗り越えていくことのたくましさをもらえる。

 

身分制度や貧富の差、自分の力ではどうにも抗えないものが立ちふさがる江戸時代に、遠いことではなくどこか親近感を感じてしまう今日この頃。

 

だからこそ、芝居小屋でたくましく生きていく彼らの物語に元気をもらえるのかもしれない。

 

彼らが作り上げた世界や時代の上に、のっかっている今の時代であるならば、それを大切にしていかなければいけないのが道理。

 

よし、この時代を頑張って生きてみよう!と
ちょっとだけそんな気分になれる快作だった。