まず「何て読むのだろう…」と本屋で考えてしまった題名
予想が当たって変に嬉しかったこの漢字「象る」の読み方は「かたどる」
切り絵作家が主人公というめずらしいミステリー。
舞台がヴィクトリア朝ということで、馬車やドレスの時代なのもよいなあと思い読んでみた。
写真というものが世に出始めたものの、魂を抜かれる恐ろしい物という認識でまだまだ人々が受けいれにくかった時代、肖像画といえばもっぱら絵画だった。
それ以外に切り絵というものも肖像画としての需要があった。主人公のアグネスはその切り絵の肖像画を生業にしている女性だ。
とはいえ、売れっ子というわけでもなさそうで、わがままな母と甥っ子と暮らしているが生活はかつかつのようだ。
それでも細々と切り絵稼業で生計をたてていたアグネスだったが、彼女の生活に天変地異ともいえる禍が襲ってくる。
なぜか彼女に切り絵の肖像画を依頼しにきた客たちが、謎の死を遂げていくのだ。不吉な切り絵屋はたちまち噂になり、不安と恐怖に苛まされる日々を送ることになる。
この小説は、2人の人物の主観が交互に描かれていく形式になっていて、もう一人の主人公が霊媒を生業にしている11歳の少女パールだ。
彼女には催眠術を使う姉がいるが、金儲け主義のがめつい性格で臆病極まりないパールには恐ろしい存在になっている。
このパールの元に、アグネスが頼って訪ねてくることで事件は奇妙な形に動き出す。
殺人事件でありながら、警察の捜査もほとんど描かれず、被害者の身元も肖像画の客だったというだけの情報しか知らされない、とても奇妙な展開のミステリーだ。
ほぼアグネスとパールの主観で語られていくが、この2人、犯人を見つけたいという目的をもった探偵役でありながら、臆病の極みでかなり不安定な性格なのだ。
正直だんだんイライラしてくる。
とはいえ、交霊会の場面や少しずつ加えられていく彼女たちの過去の出来事などが絡み合い、飽きさせない展開で読み進められる。
ホラーとミステリーの融合か? と思っていたがラストはしっかりと理論的に締めくくられた。ただ解決したか?というと、そうは簡単に言い切れない展開にうーんとうなってしまう。
ネタばれ出来ないのがもどかしいが、つまりは結局、警察の捜査も被害者の情報も確かに必要のない不気味で変な物語なのだ。
結末を二つ予想していたのだけど、両方当たったような当たってないような、自分にとってはやっぱり不気味で変な物語になった。