もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

「ザリガニの鳴くところ」シンプルだけど濃密な文学ミステリー

小説には無い映画の良さは、その時代の雰囲気を視覚的に楽しませてくれること。1960年代が舞台ということで、レトロなファッションが新鮮だった。主人公が着ているワンピースやシャツの小花柄がかわいい。

 

 

湿地で暮らす大家族だったカイアは、6歳の時に独りぼっちになる。
それでも自然と共に暮らす術を身に着けていた彼女は、数少ない親切な近隣の夫婦の手を借りながら、大人の女性になるまで暮らし続けていた。

 

映画の冒頭は、一人の男性の死体が湿地帯で発見されたことから始まるが、すぐさま疑われたのが「湿地の少女」と蔑まれているカイアだった。

 

複雑なストーリーでないのに、彼女が成長していく様と、カイアを理解してくれる純真な青年との恋愛、そして事件の顛末が審議されていく法廷場面など、内容が盛りだくさんで飽きさせない。

 

事件の真相も気になるが、もうカイアが幸せになれたらそれでいいんじゃないの、という気持ちに見ているこっちはなってくる。

 

物語の濃密さと視覚的な自然の美しさ、偏見とか差別とか重いテーマもたっぷりと含み、見ごたえがあるストーリーだ。

 

これがミステリーであることをほぼ忘れかけているが、ラストにしっかりと思い出させてくれ、なおかつその真実の重さと、また新たな考え方を突き付けてくる。

 

 

ところで、ストーリーとは関係ないが、差別的な目で見られつつも、そこそこかわいい服を着て、そこそこいい感じの家に一人暮らししているカイアは、理想的なんじゃないのという気がしないでもない。

 

若い女性であるからこそ、町の楽しみも友達も持たないカイアの暮らしは、かわいそう感や異常感に取り巻かれているが、そこそこいい年になったら町の喧騒から離れたいタイプの人間にとっては贅沢な暮らしともいえそうだ。

 

そんな戯言は、湿地という自然と闘ってからほざけ、と自ら突っ込んだところで締めといたします。