もうちょっと美形な女優さんだったらよかったのになあ~
といきなり思った。
そうしたらもっと主人公のキャシーに狂った感がプラスされてたのに。
見ている間にすぐにその考えは変わった。
というのも、このストーリーは狂気なお話ではなく、ものすごく真面目なストーリーだというのがわかったから。
夜ごと酔ったふりをして、お持ち帰り女を演じ、スケベな男に制裁をくらわす女キャシー。狂った行動のわけが何なのか、見ているとわかってくる。
医大生だった頃、親友を亡くし、医者になる夢を捨てなければならなかった彼女は、コーヒーショップで働く親不孝なイかれたおねーちゃん。
が、ある日偶然やって来た元同級生のライアンと意気投合する。そしてたまたま彼の口から彼女を奈落に突き落としたヤツラの現在の状況を耳にしてしまう。
スイッチが入ったキャシーの復讐劇が始まる――。
性犯罪がテーマのこの映画、男は人格なんか感じられないほどバカでスケベに描かれている。男性が見るときっといい気はしないだろうけど、性犯罪が絶えない現実を考えると、なまじ大げさとはいえない。
とはいえ、この映画の面白いところは、女性の味方ではけして無いところ。キャシーは女性を代表している存在ではなく、悪いことをしたやつが罰を受けないそのこと自体が許せない。つまり、彼女のやっていることは仕事人。
ある意味、狂った女ではなく仕事人的存在であるから、美人過ぎないキャリーマリガンで良かったのだと思う。キャリーさんにとても失礼な言い方だけど。
アカデミー脚本賞をとっただけあって、ストーリーが凝っている。
惹きこまれていくのは必然なんだけど、それよりも気を散らしてくれるのは、ものすごくポップで奇抜いおしゃれさ。
いつの時代の話だというような、コントラストの激しい花柄のワンピースやピッチピチのTシャツがかわいい。ブルーのワンピースはセクシーだし、ゆるーく編んだ髪もお嬢様っぽい。
恋人といるときのかわいいキャシーと、狂ったスイッチの入ったときのキャシーの毒毒しい色彩のコントラストが際立っている。可愛く髪に結んだ小さなブル―のリボンとナース姿で履く真っ赤なハイヒールの対象のように。
そうなんです。この映画シンメトリーになっている。ついついシャイニングを思いだしたけど、たびたび出てくるこの左右対称の背景が妙に落ち着かなくさせる。
どこかズレているキャシーという人物を際立たせる。
凄惨な内容なのに、凄惨や残酷な場面は一切出てこないというのも変わっている。
現実的であり非現実そのものでもあり、とにかくとても奇妙でめずらしい映画だった。
結果、若気の至りなんて通用しないってことで。