もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

キャシー・ベイツの女優力がすごい「黙秘」

スティーブン・キング原作の映画の中で、必ずといっていいほど上位に挙がるのが「ミザリー」。確かにあのミザリーの存在は壮絶怖い。

そのミザリーを演じ、アカデミー賞主演女優賞を受賞したキャシー・ベイツスティーブン・キングが捧げたと言われている小説がある。

それを映画化したのが「黙秘」
主演はもちろんキャシー・ベイツ

 

 

 

冒頭、いきなり階段から転げ落ちた瀕死の老婆に重いのし棒をふりかざす、キャシー・ベイツ演じるドロレスの姿から始まる。訪ねてきた郵便配達人によって寸でのところで阻止されるが、老婆はすでに息絶えていた。

 

場面は変わって、ニューヨーク。ジャーナリストのセリーナに届いた突然の知らせ。母が人を殺した容疑で捕まった。

 

久しぶりに故郷の島に帰ったセリーナ。しかし再会した母娘の態度はぎこちない。
亡くなったのは、ドロレスが20年間メイドとして使えてきた女主人だった。
「自分は殺していない」ときっぱりと断言するドロレス。
にもかかわらず、詳しい事情を語ろうとしない。

 

映画は始終、この親子の皮肉や嫌味を含んだやりとりを中心に展開する。
何度もブチ切れるセリーナ。このどうしようもない溝の理由が、ストーリーが進んでいくうちに徐々に明かされていく。

 

すべては20年前に起こった父親の不審死だった。
その時も、ドロレスは「殺していない」と言い切っていた。

 

現在の疲れ切った母娘の様子と、回想の中の若くて元気な2人の様子が交互に現れる形で映画は進んでいく。まるで幻や幽霊を見るように、ドロレスの目の前で過去の映像に突入していく流れは、独特で幻想的だ。
日食という背景がまた一段と幻想的な雰囲気をかもしだしている。

 

セリーナが断片的に覚えていた記憶、忘れていたおぞましい記憶が次第につながっていく。
やがて明かされるドロレスの告白は、セリーナの心にも、見ているこちらにも衝撃を与えていく。

 

 

 

やはり、ミザリー同様キャシー・ベイツの演技は圧巻。
秘密を抱えてひたすら歳月を耐えて生きた女性の存在を、迫力を持ってこちらに投げかけてくる。

物語の中心になっているのは、母親として妻としての存在と立場。
今より少し以前のこの時代。
女性が今より生きにくかった時代。
けれど、この重いテーマは今でも根本的には何も解決していないと感じてしまう。

 

母親が子供を守るのは当然のこと。
しかしそこに打算は働かないだろうか。
自分の名誉よりも命よりも、子供の名誉や命の方を尊重できるだろうか。

 

嫌われたくない。
かっこいい母親でいたい。
自分がひどいめにあうのは嫌だ。
今目をつぶっていれば、そのうちきっとなんとかなる――。

 

ドロレスはストレートな性格だ。
裏表のない分、子供のセリーヌにも全力で向き合っていく。
それがいいことなのかどうかはわからない。
もっと何かやり方があったんじゃないかと思ったりもする。

 

重いテーマの人間ドラマがズシーンと来る映画だが、ミステリーとしてもなかなか意表を突く作品。

 

それにしても、口コミで見たとおり確かに邦題の「黙秘」はどうなん?て感じ。
原題は「ドロレス・クレイボーン」だから、まあ変えるのはいいとしても。
だってドロレスは、そこまで言うほどかたくなに黙秘してるわけじゃないし。
まわりが聞く耳持たなかったんじゃないのぉって気がしなくもない。
唯一聞いてくれたのが――

この映画をまだ見ていない方たちのために、そこのところは「黙秘」