もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

まるで動く美術館やあ「グランド・ブダペスト・ホテル」

なんて素敵な映画なんだろう。ちょっとびっくりしてしまった。

 

 

年老いた作家が語った、彼が昔聞いたグランド・ブダペスト・ホテルの物語。

 

1932年ブダペストの名コンシェルジュ「グスタフ」のもとに、富豪の老人たちが集う。その一人、マダムDは怯えていた。グスタフにもう二度と会えない気がすると――。

 

その不安は的中し、彼女は自宅で何者かに殺されてしまう。
彼女の遺言により、莫大な遺産の中の貴重な絵画が何とグスタフに譲られることになった。しかし、彼は殺人の容疑をかけられてしまう。

 

そこから彼と弟子のホテルボーイの少年との、冗談みたいな逃亡劇が始まる――のだが、正直この映画はストーリーなんてどうでもいい。

 

きっとアカデミー賞をはじめ数々の賞を総なめにした映画ということで、重厚で感動に満ちた物語を期待して見る人も多いと思うが、おそらくめちゃくちゃ酷評するだろう。

 

映画でしか得られない感動というものはある。
原作の方がよかったとか、なんで実写化するかなあとか、そういう映画には絶対にまねのできないこれもまた、映画という芸術の1つ。

 

全然違うんだけど、キューブリック監督を始めてみた時みたいな感覚を思い出した。
美しすぎる、怖すぎる、不気味すぎる
その中から、美しすぎるだけを取り出して、面白すぎる、楽しすぎる、おしゃれすぎるをプラスしよう。

 

動く美術館みたいな映画。
しかもものすごい役者さんの顔ぶれ。
極悪息子役、どっかで見たよなあと思っていたら、戦場のピアニストの人だと知ってびっくりした。あの悲しさと儚さはどこへいったんだ。

 

しかもあのシワシワマダムが、ティルダさまとは…
贅沢の極みだ…楽しすぎる

 

2014年の公開時、この映画は笑いどころだけではなく、結果ひと昔前の切なさを残す映画だっただろう。
でも、今見ると、切なさどころかリアルタイムに悲しさが襲う。
ホテルは兵舎代わりにされ、列車が臨時停車した窓の外にいるのは軍人で。

 

冗談みたいな映画が、まさにほんと今冗談みたい。
こんな映画が見れる現代、ネットでほめたりけなしたりできる現代、
いったい何をやってんだか。
何、廃墟作ってんだか。
今いったいいつの時代だと思ってんだ、あのおっさん。

死体置き場から死体が1つ無くなったことから始まる「ロスト・ボディ」

森の中を背後を気にしながら必死で逃げる男の場面から始まる。いきなりのホラー的展開に掴みはじゅうぶん。ようやく道路にたどり着いたとたん、自動車にはねられ吹っ飛ぶ男。あとあと考えた時、この事故さえなければこの映画のスリラー的展開は成立しなかったんだなあと思った。

 

 

はねられた男は、死体安置所の警備員。その安置所では一体の死体が行方不明になっていた。この死体と警備員が逃げたこととは関係があるのか――

もちろんあるでしょ。

死体はマイカという富豪の女社長。当日に心臓発作で死んでいた。ハイメ警部はこの事件を捜査するために、マイカの夫であるアレックスを聴取する。

 

映画はほぼこのアレックスの視点で話が進んでいく。妻との間に愛がなかった彼は、警察から疑われることになるが、死体失踪には覚えがない。にも拘わらず、彼のまわりで次々とおかしな出来事がおこり、それらはすべてが彼の仕業であることを指していた。

 

この次々と起こるおかしな出来事が、絶妙にスリラーしていて面白い。突然の停電、死体安置室での物音、妻の携帯があった場所など、「これホラー映画だっけ」と思わせるような展開の仕方。

 

アレックスへの疑いはどんどん濃くなり、ハイメ警部の取り調べは執拗を極めていく。
監禁状態の中、必死の思いで電話で愛人に連絡し、彼女の手を借り謎を解こうするアレックス。

 

アレックスをゾっとさせる出来事は、彼だけがピンとくる過去の場面を指していて、その回想と現実を行ったり来たりしながら物語は進む。

 

途中からアレックスはマイカの死を信じられなくなる。事実、回想シーンでの彼女のインパクトとアクの強さはかなりのもので、そうかこの人なら生きているかもしれないと思わせてしまう。

 

テンポの良さとどんどん追い詰められていく心理的恐怖も加わって、予想以上に楽しめるサスペンススリラーだった。

 

ラスト近くで、意識不明だった警備員が意識をとりもどし、自分の見たものを語るが、そのあたりから怒涛のクライマックス。

 

死体はなぜ盗み出されて、誰がやったのか、ということはじわじわと何となくわかってくるかもしれない。正直自分はわかりました。

 

でも、そんなことはたいして問題にならないほど楽しませてもらえます、この映画。

 

 

スクリーンと繋がる現実「ファイナル・ガールズ惨劇のシナリオ」

ようやくパソコンが復活した。
さて何の映画のこと書こうか。

胸糞悪いプーチンのツラを見てると、チャイルド44とかレッドスパローとか思いつく映画はいっぱいあるけど、よけいに腹たってくるので、平和なホラーにしよう。

 

 

車の中、スマホで1980年代ホラーを見ながら誰かを待っている感じの少女。
そこへママが戻ってくる。
イラついているのはまた売り込みに失敗したらしい。
売り込んでいるのは自分。どうやらママは女優さんのようだ。

 

シングルマザーのママと、「電気代が払えない」とやけにしっかりしてそうな娘。
マまは焦りながらも、なんとかごまかそうと歌を歌ったりして、ノリノリでだんだんリアクション派手になってきて、結局娘も笑っちゃって、いっしょに楽しくノリノリで――

 

ママ、前見ないと、そんなことしてたら危ないよ、と思っていたら、あんのじょおぉぉ――

 

三年後、そこそこいい感じの娘さんになっているかつての少女マックス。
彼女はかつてママが出ていたホラー映画の上映会に呼ばれることになった。

気の進まないまま、映画を見ていた劇場が、突然火事に見舞われる。
必死で逃げようと数人の友達たちとスクリーンの裏に飛び込んだが――。

 

なんとそこはママが出ていた映画の中だった。
当然そこには、死んだはずのママがいて…。

 

 

熟知している映画のストーリーは、次に起こることも、次に誰が殺されるかもわかっている。その辺の感じはスクリームを彷彿とさせる。

ただあそこまでふざけた設定ではなく、目の前にあるのは現実。襲ってくるのは現存するジェイソン風殺人鬼。登場人物と本物たち総勢10人以上が逃げ惑う。

 

1980年代と現代の学生グループがそれぞれキャラの被り合いで楽しい。
スマホを電話だと信じない1980年代のイケイケ娘もいるし、「私みたいな性悪な性格はだいたい早めに殺されることになってんのよ。長く生きすぎだわ」とヤケになる現代の性悪娘もいる。

 

ホラー映画のあるある、ラスト生き残るのは真面目でひかえめな性格の女性。ホラー映画の人物類型でファイナルガールと呼ぶ。

 

この映画でも、ファイナルガールは当然存在する。誰がそうなるのかというのもわかっているので、みんな彼女のまわりにくっついている。

 

が、しかし、結末を登場人物たちに明かしてしまったことによって、事態は変化していく。

 

感動できるホラーパロディとして高評価のこの映画。
確かにこんな感じの結末はめずらしいかも。
ラストもニヤリとしてしまう気のききよう。

 

現実とホラー映画がスクリーン一枚でつながっている設定は、まさに実感。
今わたしたちは、地球ごと映画の中に突入したみたいだ。

 

 

手作り感が贅沢なファンタジー「バロン」

パソコンの調子が悪く、ここんとこしょっちゅう悪態をつきながら画面に向かっている。もう買い替え時かな…お金ないのに…(~_~;)

 

家にパソコンのヤロウなんかいなかった1980年代の映画。
CGなんて小癪なものを使わず、合成とミニチェアで作られたすさまじく贅沢な異世界

 

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最近こういう手作り感溢れるファンタジーを思い出してよく見る。
ネバーエンディングストーリー」なんかもうめちゃくちゃ好きだった。
記憶の中ではこの「バロン」の方が昔のイメージなのに、実際は少し新しい。
この二つを抜いて断トツお気に入りだったのが「オズ」
子どもの頃からオズの魔法使いが狂ったように好きだったので、これは仕方ない。

 

この中ではバロンが一番新しいのに、一番古く感じるのは、バロンがじいさんだからかな。

 

バロンは「ほら男爵の冒険」という伝説をもとにして作られた映画。
有名な話ではあるが読んだことないので、実在したモデルがいたというのも知らなかった。

 

トルコ軍に攻撃されていたドイツの町は、廃墟となりつつも、人々は瓦礫と化した劇場で「ほら男爵の冒険」のお芝居を見ていた。しかし突然乱入してきた老人は、こんなのはウソっぱちだ、自分こそが本物のバロンであるとわめく。

 

物語は、彼が話す冒険談と現実の廃墟が交差しながら展開していく。劇団の娘である少女サリーは、砲撃で倒れているバロン老人を成り行き上死神から救ったことがきっかけになって、トルコ軍と戦う援軍を呼びにバロンといっしょに奇妙な冒険の旅に出ることになった。

 

行く先々の奇妙な世界で奇怪な人物たちとやりとりし、巻き込まれるこの感じはメリーポピンズみたいだと気づいた。

 

巨大な首だけの月の王様は見ているだけで楽しいし、貝殻の中から全裸で出てくるミロのヴィーナスはまさに絵の通り、というか絵よりも美しくセクシー。

 

こだわりぬいた感じがするセットや衣装は、もともとが劇場の舞台とリンクしている話なだけに、書割の家が出てきたりお芝居めいている。それがなぜか余計に本物っぽい。

 

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楽しかったのだなあと思う。
すごく面白い映画だったという記憶がずっとあって、夢の世界を現実にしてくれたという思いに満たされたのだろう、かつての自分は。

 

もちろん今だって楽しい。ファンタジーやSFはくらべものにならないくらい本物っぽい。ただ、テーマパークにいるときのようなしあわせ感は、今の自分には持てない。
今の自分だからなのだと思う。大人だから。

 

今の子供たちが見たらどうなのかな。やっぱりチャチいんだろうか。
けっこう楽しめると思うけど。
作りもの感があっても、お人形だってわかっていても、小道具がちょっと禿げていたりしても、それでもやっぱりテーマパークは楽しいじゃないか。

 

てことで、今日も悪態をつきつつがんばろう。
冒険に出るたびに若返るバロンが羨ましい。



1980年代のチャイナタウンが新鮮「イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」

1985年制作の映画。
舞台はニューヨークのチャイナタウン。
マフィアの内部抗争とそれに関わる市警の刑事の奮闘を描いた映画。

 

血なまぐさい内容だけど、1980年代のチャイナタウンの雰囲気と、関わるアジアの国や人が古臭くて味があって、変にときめく。

 

 

実はミッキーロークという俳優さんが苦手で。
エンゼル・ハート」や「ナイン・ハーフ」もみたけど(苦手なわりにけっこう見ている)、どうにも合わないというか、好きになれない。

 

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン」を初めて見たのはテレビだったのだけど、最近数十年ぶりに見直して、この映画にミッキーロークが出ていたのを知ってびっくりした。
ジョン・ローンの映画という印象が強くて、ミッキーロークが完全に記憶から消えていた。
どっちかっていうとミッキーロークが主役じゃないか。

 

チャイナマフィアのボスが暗殺され、盛大な葬式行列の場面から始まる。
その中で静かに歩を進めるジョン・ローン演じるジョーイ。
若き野心家の彼は、次のボスの座を虎視眈々と狙っていた。

 

ややこしい内紛が勃発し、観光客など一般人も巻き込まれて死傷する事態に、ニューヨーク市警の刑事ミッキーローク演じるスタンリーがマフィアに闘いを挑む。
二人の戦いにさまざまな人物が巻き込まれ、悲劇的な展開を迎える。

 

 

最初に見たときの印象よりも、アクションシーンが少ない映画だった。
しかもスタンリー刑事の恋愛事情がこんなにややこしいことも記憶にないし、おねーちゃんが裸になっていたことも覚えてない。(まあこれはテレビですから当然カットでしょう)

 

それから、ジョン・ローンがかわいい感じに見えたのが予想外だった。もっと怖い人の印象だったのに。それだけ自分がババぁになったってことか。

 

記憶の曖昧さに何よりびっくりしたのが、結末。
頭の中の映像でみごとにカットされているシーンがあって、それゆえずーとこの映画のラストは物足りない!と思いこんでいたのだ。

 

なぜ自分の頭は勝手にワンシーンを消したのか、謎。
しかし、実はテレビがカットしやがったんじゃないかという疑いも持ったりしている。
どっちにしてもちゃんと見てよかった。

え?どういうこと?という瞬間を味わおう「アイデンティティー」

豪雨の中、道路が遮断され、避難するべく一軒のモーテルに集まった10人の男女。
交通事故にあった家族、護送中の囚人と刑事、女優と運転手――さまざまな事情を抱えた人たちが一晩集うことになった。

 

 

そして起こる連続殺人事件。
出だしの期待とインパクトを背負って、まず第一に転がったのは女優の首。
まさに外界から遮断された空間で起こるクローズドサークルのミステリー。
犯人はこの中にいる――。

 

次々と死んでいく状況、現場に残された部屋番号が記されたルームキー、パニックに陥るメンバーたち、お約束の展開は退屈する時間がないワクワク度。

 

犯人は誰か?
という目線で見ているこちら側だが、
あまりの異常な状況に「あれ?」という瞬間が訪れる。

 

そしてメンバーたちに共通する奇妙な一致。
え、どういうこと――?
あり得ないでしょ。
これってホラー…?

 

そこで唐突に明かされるこの物語の正体。
そういうことかあ~そっか、そっかあ~おかしいと思ったんだあ~

 

 

で、すべてを知った視聴者は、新たな目線で犯人の正体を探す。
途中、おや?何?と思っていながらそのまま頭から逃がしていた伏線を思い出す。


ある本格ミステリーの題名を連想させる会話も思い出す。「え、そっちの名作?」「あれじゃないの?」とこちらの思考を間違った方に誘導させるやり方だったのか。


まるで本格ミステリーを読んだ後のようだ。
もう一回最初から読みたくなる。

 

犯人は誰かということよりも、設定と展開自体がおもしろい。
映像化ならではってとこだなあ。

ひっくりかえされ続けて頭の中大混乱「閉ざされた森」

見たことのある方々のおっしゃるとおり、頭の中が大混乱になる。
理解しようとしているうちに、またひっくりかえされる。

 

え?! ちょっと待て、えっ!
と、神経細胞フル回転。
その混乱ぶりが快感で実に面白い。

 

 

ストーリーが精密さにかける。
どんでんがえし過ぎという声もあるけど、まあ確かにそうだけど、ここまでエンターテインメントしてくれたら、大満足です。自分としては。

 

ホラーみたいな邦題だけど、れっきとしたサスペンス。
密林で行われた軍のレンジャー部隊の実弾訓練。
鬼軍曹プラス6人の隊員たちが参加したが、帰還するときを過ぎても帰ってこない。

 

捜索中のヘリが見つけた光景は、わけのわからない光景だった。
一人の隊員が負傷している仲間の隊員を背負い、後から追いかけてきた仲間の隊員と撃ち合っている――いったい何が起こったのか。

 

3人のうち1人が死亡。1人は重症。無事だったあとの1人はなぜか取り調べにも口を開こうとしない。後のメンバーはどうなったのか?

 

困った軍に呼び出されたのが、トラボルタ演じるトム。彼は麻薬捜査官であり尋問のプロ。彼の力でそれぞれの関係者が少しずつ供述を始めるが、食い違う内容に戸惑うトムと女性捜査官のオズボーン大尉。

 

だれが嘘をついて、だれが本当の供述をしているのか――。
ちょっとした言葉のミスから嘘を見ぬいたり、また違う発言が飛び出したりで、事態はどんどんひっくり返っていく。

 

ミステリーな展開にワクワクするが、ひっくり返り度が早すぎて多すぎて、わけがわからなくなっていく。物語は二転三転どころか何回転もして転がりまくり。

 

いったいどこに落ち着くのか――
いやいやそう来たかあ~
と、単純に感心しながら映画鑑賞後に「ということは――つまり」と頭を整理しなければならないので、しばらくは動けません。