もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

すさまじい勢いで読んだ面白さ「裏切り」

凝りすぎる題名は嫌だけど、こちらはもう少し凝った方が良いんじゃないかと言いたくなる愛想のない題名。

 

 

そう思ってしまうほど、題名の愛想の無さとは裏腹に面白かったのだ。
怒涛のように読み進め、下巻なんかすさまじい勢いで読んだ。
久々にこんな本に出合えてうれしい。

 

スコットランドヤードに勤務する女性刑事ケイトが、故郷のヨークシャーに帰郷したのは、一人暮らしの父親が惨殺されたためだった。元は優秀な警部だった父は、現役時代の恨みをかったのだというのが警察の見解だった。

 

それに対してどうにもしっくりこないケイトに、知らない人物からお父さんのことで会いたいという連絡が届く。疑問を抱えながらその人物に会うことにするが…。

 

この小説に詳しいあらすじは必要ない。
主人公は一応ケイトであるが、複数の登場人物たちそれぞれの視点から物語が進められていく。

 

つまり、「え、どうなるんだ?」というところでその章は終わり、次の章へと切り替わり、次の人物の視点から新たに始まる形式。
気になって気になって読まざるをえない。

 

ケイトの事件と並行して語られるのが、幼い子供を養子にもらった夫婦が巻き込まれる事件なのだが、まったく違うこの物語がある一人の人物によって重なり、怒涛の展開を見せていく。

 

登場人物も多いのだが、それぞれのキャラクターがとても詳細に魅力的に描かれているため、印象にのこりやすく、海外小説につきものの「こいつ誰だっけ」になりにくい。

 

登場人物たちがみんな何かしら孤独や悩みを抱えているが、その心理描写が実に巧なのでついつい思い入れしてしまう。その思い入れをめいいっぱい利用したストーリー展開は巧妙で、まさに題名どおりの裏切り。

 

スピーディーな展開とあらゆるところに散らばる裏切りに、めいいっぱい楽しませてもらった。ただ、ケイトのファザコンぶりとウジウジ感にはイラつきを通り越して疲れさえ覚える。

 

結果的にどんどん強くなっていくので、まあ仕方ないとは思うけど。自信を持ちなさいというメッセージにはなるとは思うけど。

 

 

 

 

サービスエリアから忽然と消えた彼女「ザ・バニシング 消失」

めずらしいオランダ映画のサイコサスペンス。

 

 

キューブリック監督が最も恐ろしいと絶賛した映画。
サービスエリアで飲み物を買いにいった恋人が、いつまで待っても戻らず、そのまま忽然と姿を消してしまうという考えただけでも恐ろしい内容。

 

待って待って待ち続ける彼がとにかく哀れで気の毒。
彼女にいったい何が起こったのか――


いろんなことを考える。人であふれているサービスエリアで誘拐?
自ら失踪?とてもそんな雰囲気ではなかったし、それにサービスエリアからどうやって?
彼女はただ飲み物を買いにいっただけなのに。

 

サスキアが消えてから3年の間、レックスは彼女を探し続けるが、いっこうに手がかりはない。そんなある日、サスキアの行方を示唆するような奇妙なメッセージが届いた。

 

派手な展開は無く、どちらかというと地味すぎる感じなのに、なんともいえない薄気味悪さを残す。
悪意や犯罪で彩られたストーリーであるのに、出てくる映像は日常を映し出しているだけだ。

 

ろくでもない人物がおくる淡々とした日常と、コミカルささえ感じる犯罪へのチャレンジは、あまりに現実的すぎてぞっとする。

 

メッセージを受け取ったレックスの頭の中は、彼女を救いたいというのを通り超えて、視聴者と同じ状態になっている。
彼女にいったい何が起こったのか――。
ラストの行動は、それが知りたい一心から出たバカな行動。
レックスにとって、何より恐ろしいのは、このまま真相がわからなくなってしまうことだった。

 

誇張した雰囲気や緊迫感をあおるような音楽など無く、まるでドキュメンタリーを見ているような、奇妙なサスペンスだ。

 

見終わた後残るのは、登場人物たち全員に掛ける問いかけ。
何で?
何でそんな行動をとったの?

 

彼も彼女も犯人も。
ラストにきて、ポンと放り出されたような戸惑いと気持ち悪さを残す、どちらかというと胸糞悪ジャンルに入る映画だった。

 

 

 

 

 

ようやく見れた渋時代劇「闇の歯車」

ずっと見たくて探していた「闇の歯車」
ようやく見つけた。

 

 

原作は読んでいないのだけど、サスペンス時代劇ということで面白そうだと思っていた。時代物って面白いものはほんとに面白いので。

 

橋爪功演じる伊兵衛が、飲み屋「おかめ」で狙う人物を物色する。
闇の世界で生きる無気力そうな佐之助、病気の妻を抱えている浪人、女との別れ話がこじれている若旦那、孫の世話ばかりでいつも愚痴ばかりこぼしている老人。


彼らはみんなわけありだが、共通しているのは喉から手が出るほど金がほしいこと。
店の常連というだけで、何の共通点もない、お互い話をしたこともない彼らに、伊兵衛が声をかける。
「儲け話がある」

 

戸惑いながらも金ほしさに引き込まれていく彼らだったが、佐之助だけ伊兵衛の言葉にうさん臭さを感じ断った。

 

しかし、佐之助の暮らしに異変が起きる。
無気力だった彼に、愛する人ができたのだ。
未来に希望を持ちたくなった佐之助は、もうけ話に手を出すことに――。

 

まあまあありがちなストーリーではありますが、なんせ伊兵衛が橋爪さんてことで魅せてくれます。紳士なおやじ伊兵衛の正体は盗賊。彼は素人たちを引き込み、押し込み強盗を計画していた。

 

選ばれし4人は、それぞれ機械仕掛けの職人だったり、夜目が効くという特徴を持っていたりして、それを生かしてなかなか面白い展開にもっていくんだろうと思っていたが。

 

正直、そういう部分はあまり強調されていなかった。時間的なものもあるので仕方ないとは思うが、キャラクターをもっと一人一人濃密に描いてほしかったなあ、という印象。まあ主役は佐之助だから彼メインになるのはしょうがないんだけど。

 

じじいはもっと渋キャラ、若旦那はもっとご陽気、浪人にはもっといい人感を出してほしかった。

 

結果的に予想していた痛快爽快な時代劇ではなかったのだけど、これはこれで面白く、結果的に彼らはすべて形は違えど〝女〟に翻弄されていたのだなあと、スケベと愛情にまみれて命をかけていく男たちを情け深く拝見しました。見れて満足。

 

江戸時代が舞台の時代劇は、やはり庶民が面白い。自分の映画の評価は、だいたいそんなに人とずれてないと思うけど、時代物だけはけっこうズレてる。駄作といわれているものが好きだったりする。

 

ストーリーそのものも良いけど、雰囲気とか空気感とか、くだらない会話とか妙に気になる。なのでダラダラしているのがわりと好きなのだ。たぶん江戸時代に自分は合っているんだろうなあ。だからその場に存在させてくれている感のあるものを好む傾向。

 

それでもやっぱり動乱の時代が舞台だと、迫力のストーリーがほしいねえ。
江戸時代だけど、今唐突に十三人の刺客を思い出した。あの狂ったゴロウちゃんは怖かった…
食事を犬食いするゴロウちゃん、「サルの首は固いのお~」というゴロウちゃん、あの時代劇は衝撃だった。まさにエンターテインメント時代劇の極致。

 

 

かつての名作をもう一回読みたくなる「硝子の塔の殺人」

ミステリー好きのための、新本格好きのための――という触れ込みで評価も高い。
これは面白そうだってことで読んでみた。

 

 

ミステリ好きの大富豪が建てた硝子の塔。
そこにさまざまな職業のクセの強いメンバーたちが呼び集められる。
まずは定番の設定が用意され、そしてお約束のように起こる連続殺人事件。

 

富豪が集めた数々のコレクションとミステリーの蘊蓄。
島田荘司占星術殺人事件から、ドラマのシャーロックまで事件の合間合間で語られる蘊蓄はなかなか激しいが、特徴的なのはこの作品そのものが蘊蓄になっていること。

 

面白いのは、この塔で起こるストーリーを追っていくと、都度いろんな名作の名が浮かぶのだ。謎が解明されトリックが暴かれたときも同様に、かつての名トリックが浮かぶ。

 

なので、なんか思ったよりありきたりなトリックだなあと思うのだが、実はそのありきたり感がとても重要になってくる。練りに練られたストーリーの結末は、後半怒涛のように明かされていく。

 

密室、ダイイングメッセージ、倒叙など盛りだくさん。詰め込めるだけ詰め込んだという感じ。話じたいは荒唐無稽なんだけど、そこが良い。
絶対ありえんだろうという出来事なのに、理論的にしっかりありえる、このおもちゃ箱みたいな感じが、今まで読んできた新本格ミステリーの醍醐味の1つ。

 

硝子の塔である必要性はあるのか、と思って読んでいたがちゃんとトリックに必要だった。まるで、本格ミステリーが持つ、何かが1つズレればとたんに崩れてしまうロジックの危うさを象徴しているようだ。

 

ラストで主人公が見つけたものにより、硝子の塔が表現していたものの正体が暴かれるが、「なんと…」と呆れて感心して心の中で静かにほくそ笑みながら拍手。

 

 

 

 

 

だるまさんが転んだ的怖さ「ライト/オフ」

随分前に見たんだけど、冒頭部分しか覚えていないので再見。
それほど冒頭のインパクトが強かったということだ。

 

 

ライトを消すと暗がりに何かいる。
あれっと思ってライトをつけると何もいない。
もう一度消すと、やっぱり何かいる。しかもさっきより近い。
慌ててスイッチを入れる。何もいない。

そこでやめときゃいいのに、再び確認してしまうのが悲しい性。
あんのじょう、めっちゃ近くに――

 

冒頭部分、いきなりそんなところから始まるので、強烈に印象に残る。
この映画の化け物は、この登場の仕方を繰り返す。
まさにだるまさんが転んだ的怖さ。
だるまさんが転んだといい終えて振り向くと、敵はびっくりするくらい近くまで来ている。

 

暗闇になると出てくる化け物は、よくある無差別に驚かせたり襲ってきたりするものではなく、その後に続くストーリーに関わる存在で、徐々に正体がわかってくる。

 

部屋に引きこもりの母親と暮らす少年マーティンを援助するため、離れて暮らしていた姉のレベッカが帰ってくる。
マーティンは暗がりにいる何者かの存在を示唆し、レベッカもその存在を確認してしまう。それはどうやら引きこもりの母親に関係しているモノらしいが――。

 

じゃあずっと電気つけていればよかろうと思ってしまうのだが、そんなことをするとこの映画の面白さは無いし、その辺のところは化け物も心得ていて、自分で灯を消す力を持っているらしい。

 

正直だんだん慣れてくるし、残忍さや激しい驚かしも無いのだが、ホラー好きにはけっこう定番的に人気のある映画。
電気を消すと――いる。
振り向くと――いる。
というシンプルで根本的なところを揺さぶる怖さが、いいのかも。

 

全然関係のない話だが、
先日偶然にも、だるまさんが転んだを下校中に走りながらやっている子供たちを見かけた。鬼も走るという斬新なルールは、なかなかエキサイティングだったが。
おまえら危ないぞ。
鬼より化け物より車の方が怖いぞ。

 

カメラの向こうの気持ち悪さ「クリープ」

日本での劇場公開はなく、ネットフリックスで配信されている映画。

 

映像作家のアーロンは、報酬のいいビデオ撮影の依頼を引き受け、山の中の別荘へと向かう。そこにはジョセフと名乗る男が一人で待っていた。

 

 

ジョセフの依頼は自分の日常を撮ること。
その理由は、自分は不治の病でもう長くはなく、生まれてくる子のために父親である自分の姿を残しておきたいということだった。

 

納得したアーロンは、早々カメラを回し始める。この映画はアーロンが映す映像からなるPOV方式で、撮られるのはジョセフ。なんと登場人物はこの2人だけ。

 

ホラーの部類に入る映画なのだろうけど、残酷なシーンやお化けの類は出てこない。ただ時折ジョセフがつまらない驚かしをやるので、アーロンともども飛び上がる。

 

カメラを回し始めると、ジョセフはいきなりお風呂に入る。まだ見ぬ息子とお風呂に入っている様子を一人で演じるのだが、それを見ているだけで「こいつはちょっとおかしいのだな」と見ている側は感じ始める。

 

その後、唐突に友達だという狼のマスクをかぶったり、散歩で爆走したりと、予想通りジョセフの言動はおかしなヤツというのをしっかりとアピールし続けてくれる。

 

が、めちゃくちゃおかしいかというとそこまでめちゃくちゃなわけでもなく、それがよけいに気持ち悪い。

 

この男はマジなのか?わざと演じてるのか?というのがよくわからない。気持ち悪がるアーロンと私たちをからかっているようにも見える。どちらにしてもやっぱりおかしいことに間違いはない。

 

アーロンもその気持ち悪さを切々と感じ始めていて、なんとか切り上げて帰ろうとするが――。

 

最後まで見れるかな、と思っていたが、結局ラストどういうとこに落ち着くのか見届けるまで目を離せなかった。ラストのアーロンの決断に「なんでやねん」と突っ込みをいれ、結末の湖のシーンに「嘘やろ」と再度突っ込んだ。

 

この映画はネタバレでストーリーだけ知っても意味がない。カメラをとおしてジョセフの気持ち悪さを直に体験するのが醍醐味だ。

 

劇場公開されない地味さもわからなくもないが、こういう映画が見れることを考えると、やっぱり動画配信てありがたいな。

そんなにアホだと知らなかった「ダチョウはアホだが役に立つ」

面白いのであっという間に読んでしまいました。

 

 

この先生テレビに何度も出ていらっしゃるそうなんだけど、知りませんでした。テレビあんまり見ないので。

本屋さんで題名の面白さが目に入り、こういう生き物関係にのめりこむ先生方の本が好きなので、迷わず購入した。

 

いきなり関係ない話なんだけど、こういう先生方の本を読むと、本当に研究費に苦労されているのが共通していて、その苦労に頭が下がる。廃材やら100均グッズやらを工夫して何やかんやと手作りしてしまうみなさんに脱帽。
自分の税金がこんな研究に使ってもらえたらどんなにいいだろうと、思ってしまう。

 

で、ダチョウなんだけど、ほんとにアホなんだ。
あんまりかしこそうな顔していないと思っていたけど、家族の顔もわからないくらいアホだとは知らなんだ。

 

子供の頃からダチョウは嫌いではなく、動物園では鳥というより奇妙な生き物的感覚で見ていた。何より首のくねくねがろくろっ首のようだと思っていたら、先生も本の中で、異性へのアピールに首をくねくねさせるのがろくろっ首みたいで気持ち悪い、と同じことをおっしゃっていたので、変なとこ共感できて嬉しかった。
原因はひとえにあの生っちろい首の色だろうな。

 

ワイルドリパブリック ダチョウ 12" 12251

ワイルドリパブリック ダチョウ 12" 12251

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で、コロナにすら対向できる脅威のダチョウ抗体!
閉鎖寸前のダチョウ農園から、驚くべき発見がなされるまでの過程を、楽しいエピソードと共に語ってくれる。

 

この本はダチョウそのものの生体よりも、そこから生まれた抗体と、それにより作られたダチョウマスクについて書かれている。身近にいたダチョウがそんなすごいパワーを持っていたとはほんと驚いた。

 

ダチョウにも驚いたけど、先生が不登校だったことや、鳥に対するのめりこみ具合にも驚いた。ちょっと変な子供に好きなことを続けさせてくれたご両親にも驚いた。

 

ここまで夢中になれるものは持っていないけど、継続は力なりっていうのは、正直自分も年とっていろいろと実感している。

 

夢は見続けていればきっと叶う、とディズニーさんもおっしゃっていたではないか。
でも見続けるには、お金も暇もないのが現実で。


こういう先生方の本を読むたびに、希望を持ったり、切なくなったり、頭が真っ白になったりいろいろな状態になるけれど、間違いなく元気が出る。
これから花粉症の季節だし、ダチョウマスク買おうかな。

 

それにしてもこういう新たな発見とか知ると、いろんな困難を克服するヒントを、地球は人間のまわりにちゃんと散りばめておいてくれてるんだなあと、思う。