ナースの仕事を終えて主人公は帰宅する。家には旦那さんがいて、イチャつきながら次の連休の話なんかをする。ごく当たり前の日々の一日。
しかし直後、主人公の隣で旦那は血だらけになって絶命する。そして主人公を襲う凶器に変貌する。
ゾンビ映画「ドーン・オブ・ザ・デッド」の始まり。必死で逃げだした彼女は、同じ境遇で命からがら逃げだした人たちと遭遇し、ショッピングモールの中に立てこもる。
この映画は同名の名作のリメイクで、邦題では「ゾンビ」。
日本にゾンビの存在を広く知らしめたこのオリジナルを、実はまだ見ていない。モールにたてこもり戦うという設定は同じみたいだが、それ以外は違うらしい。
この映画でまず第一に取り上げられる特徴が「走るゾンビ」。
確かにものすごいスピードで追いかけてくる。車の後を全力疾走してくるゾンビをみていると、とても助かる気がしない。
それゆえか、このゾンビ映画、ホラー的な緊迫感やグロテスク感ももちろんしっかりあるが、スピード感があってアクション映画的な楽しさも味わえる。
プラス、キャラ設定がけっこうしっかりしていて、それぞれがみんなカッコいい活躍をする。ホラー映画おきまりの「絶対こいつ死ぬな」と最初から思わせ、そのために存在しているような軽めのキャラがほぼいない。
なので、「この人死んでほしくないなあ」という情が見ているこっちに湧いてくる。
べつに意識してこの映画を見たわけでは決して無いが、ゾンビに“感染”するという言葉がいちいち耳についてモヤッとする。走るスピードの速さに、感染力の早さを重ね合わせてしまう。
突然家の中に侵入してきた見えない凶器、突如奪われるそれまでの日常は、他人事とは思えない。
モールの屋上から侵入しようとまわりに群がるゾンビたちを見て、「すごい数だ…」と誰かが発した言葉にドキリとする。
当然のように仲間たちの中にも感染するものが出てきて――。
外に出ればあっという間に食われて感染し、自分もゾンビになり、誰かれかまわず殺してしまう。
まさに今の自分はモールの中だ。だから外に出ないようにしましょうってことになるのだろうが――。
映画の中の彼らは、モールから外に出ていく。群がるゾンビどもの中を装甲車のごときトラックで突っ切っていく。彼らがくだした決断の結果は――。
この映画のラストは、単純なホラー映画のように答えを出してくれない。ゾンビとの戦いの終結を教えてはくれない。だからこそモヤモヤがつのる。
地球は時々、命のふるいをかけて、たくさんの命を落とそうとする。その網目にすがりついて引っかかって生きてくれたのが、今の私たちにつながるご先祖さんたちなのだと思う。
自分も、このふるいにいつまで引っかかっていることができるだろうか。