もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

今読むとものすごくリアルだ「戦場のコックたち」は

今読むとものすごくリアルだ。

 

 

歴史ミステリーが好きなので、これもまた太平洋戦争を舞台にした連作ミステリーという形だけど、いくつものレビューにもあったとおりミステリー要素は薄いと思う。

 

主人公のキッド(あだ名)の従軍した2年間を、連作の形で描いた青春小説だ。翻訳ではなく日本人の作者というのが不思議なくらいのアメリカンな青年たちは、とても個性的で楽しい。兵士であり、コックでもあるキッドの日常がとても目新しく新鮮だった。

 

とはいえ、やはり戦場。
前半のまだまだ意気揚々としていた彼らが、次第に深刻で悲惨な状況に追い込まれていく様が、予想はできたことだけどつらい。

 

読書での戦場体験がとてもリアルなのは、俳優の顔を通さないこと。
どんな悲惨な話でも○○さんが演じる人物は、ベール一枚向こうの世界でもある。
本を読んで頭の中で組み立てられる人物は、そこに存在するリアルな彼らだ。

 

ミステリー要素が薄いとはいえ、「パラシュートを大量に集める目的は何なのか」や「不味い粉末卵が大量に盗まれたのはなぜなのか」「自ら敵に突っ込んで蜂の巣にされた男は何者だったのか」などの事件は、すべて戦場で起きたことならではの状況と、悲しい動機で心に響く。

 

後半心身共に追い詰められていく若者たちの怒りは、国から個人へと向かう。ヒットラーを支持した奴らは、苦しんで当然だ。その代償を命でつぐなえ――

 

思わずそう叫んだきキッドを仲間の一人が悲し気にさとす。
「それはとても危険な考えだよ、キッド」

 

戦場のピアニストを見たときも、あまりにも悲惨なヨーロッパの物語にショックを受けた。しかしそれはあくまでも歴史の1つであり、忘れてはいけないことの1つだった。

 

この小説も、以前まではそんな物語の1つであったはずだが、戦場のピアニストと同じく今現在のとてもリアルな物語になっている。今まさにキッドたちがどこかにいる。

 

仲間のいうとおり危険な考えではあるけれど、恨みや怒りはそう簡単に消えない。
ものすごく深い怨恨を残す。しかもきっと何代にもわたる長い長い間で。

 

世の中が混乱したとき怖いのは、恨みや憎悪などの感情や行動のターゲットが敵だけではないこと。密告や裏切りはすぐ身近にいる仲間の間でも増殖する。現実の銃などの武器で殺されるのも怖いけど、集団や煽りという武器で死んでいくのは壮絶悲惨だ。そしてそっちの方が今現実的かも。