題名だけで、怪しい密室殺人の本格推理小説と勝手に思いこんでいた。実は日常系の連作短編小説でした。
「Iの悲劇」の I は、Iターンのことで、6年前に廃村となった集落に、新しい住人を呼び込み村を甦らそうと試みたプロジェクト。
募集により、一人暮らしから家族まで新しい暮らしに希望を抱いた人たちが集まってくる。担当する役所の「甦り課」の万願寺さんという男性を軸に、物語は語られていく。
一見無事にスタートしたプロジェクトだったが、やがてそれぞれの移住者にさまざまな問題が発生する。
近隣トラブルのメジャーなものから始まって、行方不明になる子供、移住者の懇親会で起きた謎の事故――。
なぜこんなことが起きるのか…
疑問を感じながらも、1つ1つの出来事に対処し振り回されていく万願寺さん。
派手さはないものの「え、どういうことなんだろ」とそれぞれのストーリーに引き込まれてぐいぐい読める展開で面白い。
意外性もどちらかというと地味なんだけど、ラストで明かされる事実にあまりにリアルな現実を突きつけられて、それはそれで衝撃的。この物語の評価の高さは実はここに存在したのだなと気づく。
人が生活することの現実。
生活の場を作っていくことで発生する問題。
私ごとだが、
現在、のどかだったうちの近所はものすごい開発ラッシュで、まさにすし詰め状態で家やマンションが建ち始めている。古い一軒の家が壊され、そこに4軒の家が建った。すげえ…ぎゅうぎゅう。
住宅増加に対して道の整備がともなっていないので、細いくねくね道は車だらけで、ものすごく怖い。
正直、数年後をめどに引っ越しを考え始めている。
さて、どこに移るのか。
何をめどに、どんな希望をもって住む場所を決めるのか。
この小説は、いろんなことを考えさせてくれる。
特にIターンする人は、確かに何らかの希望や夢を持っている人が多いのかもしれない。
前に住んでいたところでは出来なかったこと、嫌なことから逃れたかった…などいろんな思いを抱えている人は少なくない。
果たしてその夢ってかなうのか?かなえてもいいのか?
動物さんたちといっしょ。
人は群れでないと生きられない。
群れで生きるのは楽しいし助け合えるけど、むずかしいね。