もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

冒険ものみたいな題名の山田流で描かれた地味な時代の個性派キャラ「室町少年倶楽部」

京都で言う〝戦前〟と〝戦後〟は太平洋戦争以外にもあり、それは「応仁の乱」というのはどっかで聞いた話だが、それほど京都という場所をめちゃくちゃにした京都最大の戦乱の1つ。

 

とはいえ歴史好きでも、どんな戦いだったかというと意外と説明しにくい複雑で首尾一貫してない戦いのような気がするが、まさかそんな発端を教えてくれる内容だとは、初めてこの本と出合った時には思いもしなかった。

 

 

山田風太郎の伝奇ものが好きなので、これもそんな感じなんだと軽い気持ちで読んだ。なんせ表紙に鎧を着たインコみたいなやつが描かれているんだから、そう思うでしょ。少年探偵風の室町版伝奇冒険物なのかな…と。

 

これはれっきとした歴史小説、といっても山田風太郎ワールド全快で、荒唐無稽とエロさも備えた、少年探偵の要素など微塵もない内容。しかし、登場人物たちが実在の人物であり、歴史的事実は変えられていないので、歴史の流れはすごくよくわかる。

 

歴史的事実を変えないというのは、とても大切な要素だと思っている。それをふまえて描かないと、何もかも変えてしまうのは歴史人物の生きた人生を冒涜しているような気になる。

 

それが小説といってしまえばそうなんだろうけど。でもそれを読んで、感動しました!こんな人だったんだ!という感想を聞くと、ほっとけばいいと思いながらもなんか複雑。

 

それはそれとして、この本を再読しようとしたきっかけは、室町時代や足利将軍の時代というものが頭の中でぼんやりとし始めているというのもあった。

 

せいぜい知っているのは金閣寺をおつくりになった足利義満までっていうのがけっこう一般的。じゃあ銀閣寺は誰だっけ、というのに繋がる。確か足利義政。てことで、この話はその足利義政の話で、題名の中心的少年で描かれているのが彼だ。

 

幼くして将軍を継ぐことを強いられ、そして結果的に政治に背を向けていくまでの過程を、同じく少年少女たちであり、幼馴染でありながら後に複雑な関係になっていく仲間たちを絡めて描いている。

 

銀閣寺創建など、文化的な遺産を残したものの、財政は破綻し政治的にも混乱を極めた足利義政政権。また、悪女としてその名を歴史にとどろかせている日野登美子。その辺を考えると、彼らは室町時代を代表する人物たちと言えるかもしれない。

 

とはいえ、再読して確認したくなるほど、足利将軍の時代というのに触れることが少ない。戦国時代が派手すぎるので、身内の対立や大名同志の争いが激しいこの時代は面白味がないのだろうが、鎌倉殿を例に見るように見方によっては面白いんじゃないかなと思う。

 

この本には二本収録されていて、もう一本は義政の父である足利義教の話で、この人物のことを初めて知ったのはこの本だったのだけど、こんな面白い人がいたんだと驚嘆したことを覚えている。

 

面白いというのに語弊があるくらい強権将軍なのだけど、後の義政の時代を考えると、ある程度強権でなければこの時代を抑え込むことはできなかったのではないかという気がしてくる。鎌倉殿の義時なども然りだったのでは。

 

もう一つ面白い面が、義教は恐怖政治と恐れられるほど、意に添わぬ側近をバスバスと処罰処分していったことでも有名で、比叡山を残虐に焼き討ちしたりと、その後に現れる超有名歴史人物ととてもよく似ている。

 

この人物は義教のファンだったという話も聞いたことがあり、それを知って一段と興味を持った。

 

近年再評価されている足利義教という人物の大荒れ政治を楽しめ、彼がもっと生きていたら、その後の少年倶楽部は平和な人生を送れたのでは、そして京都を焼き尽くす応仁の乱はなかったのでは、などという想像力を掻き立ててくれる興味深い二本立てだ。