グリコ森永事件をテーマにした「罪の声」は以前から気になっていたが、フィクションだしなあ、と思って読んでいなかった。
で、このあいだ古本屋で見つけてようやく読んで、けっこう面白く、映画もみていると、どこまでがフィクションでどこまでが事実だったのか気になり始めた。
知らない事件ではないはずなのに、この事件はどこか記憶の中で茫洋としていて、はっきりと思い出せない。
有名な事件なのでドキュメンタリーな本はたくさん出ているが、やはりそこは信頼のNHKでしょう。
あまりにも有名なキツネ目の男、コンビニに残る怪しい男の映像、淡々と読み上げられる子供の声のテープなど、何度もテレビで見てはっきりと覚えているが、事件そのものについては自分の中で漠然としている。
未解決事件をテーマにした番組のプロジェクトによって、この事件を再取材することになったNHKの記者たちの奮闘が伝わる本で、さまざまな人々の証言が集められていて、事件の流れが非常によくわかる。
証言者はおもに捜査にあたった警察関係や先輩記者たちで、今でこそ話せる事柄が興味深く、現代の技術による声紋の解析など、そこから新たな新事実も出てきたりして驚く。
コンビニのビデオ映像は当時の元画質があまりにも悪く、現代においてもどうすることもできないというのはとても残念。
2012年に出されたこの本、それからさらに10以上の歳月がたった。この10年の世の中の変化も更に激しい。令和の時代の今読むのも、平成とはまた違った感慨を受ける。
今この事件が起これば防犯カメラとAIがたちどころに解決するだろうし、それはそれで怖い気もするが。
わたしたちはそのうちAIに刈られる存在になるかもしれない、人間は反乱軍としてターミネーターと戦い――ってそんなことはどうでもいい。
この本の目的は、なぜ未解決になったのかということ。
問題提起の1つになっているのが職質。
キツネ目の男を何度も見ていながら、職務質問していなかった事実だ。
その何故?の疑問が多くの警察関係者の証言によってあぶりだされてくる。
職質はとても重要で、今でも職務質問したことがきっかけで捕まるケースは非常に多い。それこそプロの見る目の凄さだといつも感心させられる。
グリコ森永事件においてもそのチャンスは幾度もあった。
なのに何で?
では、自分の将来をかけて、上に逆らって職質できるか――
つまりはそういうことだ。
そして広域捜査による警察の協力性の弱さ。
滋賀県警の証言にはほんと驚いた。
知ってのことか、偶然なのか、その辺を犯人たちはうまくついたということだ。
元大阪府警の偉いさんの証言はすさまじい。要約すると、
あれは失敗ではない。金をとれなかった犯人が失敗したんだ。職質なんかしたら一網打尽できないではないか。え、滋賀県警?そんなこと初めて聞いた。ならなんでその場で捕まえなかったんだ!
意味わからない。
この事件以後、警察は随分変わったようだが、同じような状況や会社は今でもあたりまえのようにいる。上申できない空気は変わらない。
これ失敗だよなあ、それ絶対マズいでしょ、と思っても自分の将来をかけて上申しようなんて思わない。
いろんな面でおかしい、間違っていると声を出せる世の中にはなってきたけど、それでもやっぱり匿名ではなく、自分自身に関わるとマダマダ。
あんた実は裸の王様だよ、なんて誰が言うよ。
勝手にあんただけコケてくれって思うのが普通で、それはたぶん太古の昔から変わらない。