しっかり「やられたあ!」感を満足させてくれたミステリー。
軒並み評価の高い作品だったので、期待値を上げ過ぎないように挑んだが、それでもしっかり楽しませてくれた。
外からの往来が絶たれた状況で事件が起きるクローズドサークルだが、この作品の状況はかなり特殊。ある意味SFのようだ。
語り手である主人公は、大学時代の友人たちとの旅先で、朽ちかけた地下建築を探検することになる。何に使われたかわからない不気味な地下3階のその建物は、徐々に水没していてるようだった。
そこで起こる予期せぬ地震。それによって、彼らは建物内に閉じ込められてしまう。
誰にもしられていないこの場所で、救助を待つのは不可能。しかも状況からして建物は後一週間ほどで完全に水没する。
パニックになりつつも、唯一残された手段を見つける。それは誰か一人が機械を動かすことで出入口を確保できる。しかしその一人はいっしょに出ることはできず犠牲にならなければならない。
問題は誰がその役を引き受けるのか。
しかしそんな鬼気迫る状況でなぜか起こった殺人事件。
なんで今?
だが彼らの頭にひらめいたのは、その犯人を見つけ出し、その人物に犠牲になってもらうということ。
特殊設定なだけに、クローズドサークルものにありがちな、お互いどうしの会話や関係性、どこかのんびりとした時間の雰囲気がこの作品には感じられない。
偶然居合わせ、同宿することになった家族や、探偵役を務める主人公の従兄など、顔見知りではない人物たちも含まれていることから、この物語は動機が問題ではなく、誰やったかに主軸を置いたものなのだと思いながら読むことになるが――。
盛り上げるためにタイムリミットギリギリの状態で謎解きが始まるのだろうと予想する。本当に犯人は犠牲になるのか、ラストどうやって締めるのか、などいろいろと考える。
確かに予想通りギリギリの状態で謎解きを迎えるが、それは物語的に盛り上がるためではなかった。
謎が解かれていく過程で浮上する犯人の正体。
やはりこれは動機の問題ではなかったんだな、と思いきや、ラストに仕掛けられたどんでん返しに驚愕。
驚くべき納得のいく殺人の動機。
クローズドサークルものにしては動きのある展開で、視覚的にも派手なので、なんかこれ映像化されそうな気がするなあ。