もくれんの映画と読書日記

趣味のかたよった読書と映画鑑賞の日記です。

繰り返される戦いの虚しさが予想以上にずっしり来た歴史「トロイ」「新少林寺」

世界中戦いだらけで、ほんと心底嫌になりますが。
たまたまこの映画を見た直後に、ハマスによるイスラエルへの攻撃が起きて、戦いの虚しさとか、何前年たっても変わらない人の愚かさとか、今この瞬間も歴史の一部であること、トロイや少林寺で死んでいった兵士や庶民が決して他人事ではないことを実感させられた。

 

「トロイ」

 

 

ブラピ演じる不死身の勇者アキレスが有名なこの映画。気になりつつも上映時間3時間に恐れをなしてなかなか手が出なかった。

 

オーランド・ブルーム演じるトロイの王子パリスが、スパルタの妻ヘレンと不倫関係になり、挙句の果てに連れて逃げてしまうという己勝手な行動により、ギリシャの大軍から攻め込まれることになる。

ギリシャ軍の総大将であるアガメムノンにとっては、不倫なんてどうでもよく、トロイを攻め込む口実にしか過ぎなかった。つまりは良いきっかけを与えてしまったのだ。

 

鉄壁な城塞で守りを固め、数々の敵から国を守ってきたトロイ。そこに攻め込むのは英雄オデュッセウスと最強戦士アキレス。

 

しかしパリスの兄であり、トロイの英雄ヘクトルの奮戦によって予想通り苦戦する。そこで歴史に名高い巨大木馬が登場することになるのだが――。

 

シュリーマンが遺跡を発掘するまで、すべて神話とされていたこの物語は、単純明快でわかりやすい話なのかと思っていたら、この映画は少し違った。

 

視点がどちら側からでもなく、かなり俯瞰的に見ているようなところがあり、唯一偉い人にも平気で逆らうアキレスを通して、こちら側にメッセージを送ってくる。

 

「老人が語らい、死ぬのは若い兵士——」とかなんとか。
「バカのために死ぬな」みたいなこと。

 

誰にも肩入れしていないことで、ほぼ神話のこの物語が妙に生々しくてリアルなのだ。敵も味方もとびぬけた英雄も存在しない、みんなどこか正しくてどこか間違っている。

 

やたら攻撃的で感情的なスパルタも、神が救ってくれるとわけのわからない議論をしているトロイも、どっかボケている。

王をののしり、トロイの神像の首を跳ね飛ばすアキレスも、一見カッコよく見えるが突っ張りすぎてぶっとびすぎ。

 

「新少林寺

 

 

香港映画はあんまり見ないのだけど、2020年に急逝した香港アクション映画の巨匠ベニー・チャンの映画は見るべきだ!という、アジア映画にはまっている娘の勧めもあって、またたまたまテレビでやっていたというのもあって、見させていただいた。

 

舞台は20世紀の辛亥革命の時代。香港の映画スターアンディ・ラウ演じるコウケツは、横暴な軍人であったが、裏切りにより追われる身となる。大切な物を何もかも失うコウケツをかくまったのは、戦火の中苦しむ民衆を救済している少林寺だった。

 

彼らの高潔な信念と言動に改心したコウケツは、自らも僧侶となりカンフーも身に着ける。やがてやってくる悪い奴らに立ち向かっていくコウケツと少林寺の面々。

 

少林寺は何作か見たことがあるが、勧善懲悪でとにかくキレキレのカンフーアクションが見れるのが楽しい。

 

今回もその感じなのだろうと思っていたが、最後まで見るとベニー・チャン監督の独特の世界観とメッセージにしてやられる。ラスト、ニコラス・ツェー演じる悪者の絶叫がすべてを語る。

 

少林寺という形を借りつつ、庶民の無力感や軍の横暴さをしっかりと描いたこの映画は、その後の香港の運命を暗示しているようだ。

 

暗めのストーリーなのだが、ウー・ジン兄さんたちの戦いぶりはめちゃくちゃかっこよくて、見どころ満点。トロイも、ブラピよりヘクトルの方が断然カッコよかったし。

 

唯一明るさと笑いをかもしだしているのが、年老いた料理番を務めるジャッキーと子供たちが出るシーン。おなじみのジャッキーカンフー炸裂で楽しませてくれる。

 

あほんだら!と言いたくなる偉いやつらの中で、このジャッキーが一番素敵な老人だった。